煎茶の道具その1


 煎茶の道具は種類も多く、その名称も耳なれないものが多いようです。同じ道具でも異なったいろいろの呼び方をされることも少なくありません。また同じ道具でも、流派によっては、使うところと使わないところがあったり、また同じ名称でありながら別の道具をさすこともあります。特定の流だけで使用される特殊な道具も中にはあるわけです。
 ここでは、各々の名称の中で、最も一般的と思われるものを最初にあげ、他の名称も並記することにしました。特定の流の呼び名で統一したわけではありません。また各々の名称の由来等は省略し、道具そのものの簡単な説明にとどめてあります。

 煎茶の風習が中国から伝えられたこともあって、初期には、中国から渡って来た道具を主として使用していましたが、日本での煎茶の発展、飲まれるお茶そのものの変化に応じて、新しい道具も作られるようになりました。もちろん、中国の道具、すなわち唐具といわれる道具が現在でも珍重されていることに変わりありません。
 ここに紹介する道具の中には、私たち日常生活にも使われているものも少なくないと思われます。そんなところにも、日常生活に即応した茶道としての親しみを感じられることでしょう。

茶席飾の一例

茶具褥
(さぐじょく)
 煎茶席の道具飾りの下に敷くもので、大きさは一定していませんが、横はタタミの幅よりやや短かく、縦は60cmくらいのものが普通です。木綿・麻・毛織物などいろいろ使われ、無地のもの柄物があり、色も決まってはいません。道具との調和を考えて選ぶようにすることが大切です。
  
涼炉
(りょうろ)
 いわゆる焜炉(コンロ)のことで、煎茶独特のものの一つでしょう。大部分のものは、素焼きですが火を入れるところだけ素焼きのものをはめ込むようにして、本体は磁質のものがあり、絵つけのしたものもあります。
形は丸いものがほとんどですが、中には四角や八角のものもあります。大きさも大小さまざまですが、季節によって使い分けられたり、使われる手前によって選ばれたりするわけです。
この涼炉を置く台として炉台があります。陶器が多いのですが、ときには古瓦を使ったりもします。涼炉に足のある場合は炉台に足のないものをつかうことになっています。
涼炉
  
火炉
(かろ)
 普通には瓶掛けといわれるものです。一般家庭で使われる火鉢の小型のものと考えてよいでしょう。金属製のもの陶磁器のものと、その材質もいろいろあります。涼炉とちがって、灰を操作して火加減をするようになっています。これに、金や銀、土の瓶などをかけて湯をわかします。
   
烏府(うふ)
炭斗
(たんとう)
炭取り
筥(きょ)
 最近の日常生活では、炭を使うことがすくないようですが、普通に使われている炭取りのことです。小さな涼炉用の炭の入れものですから、あまりおおきなものはありません。
直径20cmくらいまでのものでしょう。
竹や籐で編まれたものがほとんどですが、中には紙こよりで編んで仕上げたものもあります。
烏府
   
火斗
(かと)
 火種を運ぶ道具で、一般に使われる十能(じゅうのう)のことです。涼炉と同じく、火を入れるため、素焼きのものがほとんどです。
   
炉扇
(ろせん)
 涼炉の火を起こすための団扇(うちわ)です。竹や籐で編んだものが大部分ですが、中には薄い板を使ったものや、紙でつくられたものもあります。形は普通のうちわとあまり変わりませんが、大きさはずいぶん小さいものです。 炉扇
   
羽箒
(はぼうき)
 炭手前のとき、形式的ではありますが、炉の灰を掃き清めるのに使われます。一般的に使われているのは、野雁の羽や、鶴の羽なども使われることがあります。柄の部分は普通には籐や竹の皮で巻かれているのですが、象牙や陶磁器など手のこんだものも見られます。 羽箒
  
火箸(ひばし)
火筋(かちょ)
 長さ20cm内外の火箸で、一般家庭で使われているものよりずっと小さいものが使われます。 火箸
   
炉屏
(ろびょう)
 炉先に飾る屏風、又はこれに類するものをいいます。細い竹を氷裂に組んだものや、表具仕立てのもので、絵や字を書いたもの、板を使ったものなどいろいろのものが使われます。形も、二枚折りになったもの、つい立て式のものなど様々ですが、あまり高さのあるものは使われません。 炉屏
   
ボーフラ  湯わかしのことです。素焼で、横手のものと上手のものがありますが、横手のもの、つまり、普通の急須に似た形のものが多いようです。煎茶道具の中で、何故かこの道具だけが西洋語で呼ばれています。保宇夫良などという風に漢字で書かれたりしています。
素焼のこわれやすいものであり、手入れをよくしないと、湯に臭いが出るので注意が必要です。
ボーフラ
   
    罐座(かんざ)
瓶敷(びんしき)
 湯わかし(ボーフラ等)を炉から降ろしたときの台として使われるものです。竹、籐などで編まれたもの、竹の節を利用したもの(売茶翁がはじめて使ったといわれる)などがあります。 罐座
   
水注(すいちゅう)
水指(みずさし)
水滴(すいてき)
 煎茶の手前に必要な水を入れておく器で要するに水指(みずさし)のことです。ボーフラや急須に水をつぐのに便利なものがよいわけですが、形は千差万別でいろいろのものがあります。陶磁器のものが大部分ですが、金属性のものや、ときには竹でつくられているものもあります。煎茶手前でも、抹茶のような水指を使うことがありますが、そのときには杓をつかいます。 水注
   
洗瓶(せんびん)  煎茶の手前で、急須や茶碗を洗うのに必要な水を入れておくものです。小形のヤカンと思えばよいでしょう。注ぎ口の水きれのよいものを選ばねばなりません。材質は銅や陶磁器などいろいろあります。 洗瓶
  
(しう)
滓方(しほう)
茶滓入れ
(ちゃかすいれ)
 茶滓(ちゃかす)を入れる器です。陶磁器のものがほとんどです。 滓盂 滓盂
    
建水
(けんすい)
     
 急須や茶碗を洗った水をすてる器で、俗にいうこぼしのことです。金属、陶磁器、曲げ物などいろいろありますが、煎茶用として、ふたのついているものも多いようです。
役目がら、あまり目立つ色のものは使われません。
建水

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